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フェンスの中の返還された日本「根岸住宅地区」

フェンスの中の返還された日本「根岸住宅地区」

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本日は横浜の山手に来ております。

こちらは根岸線の山手駅です。同駅で降りるのは初めてです。横浜って起伏の激しい地域のイメージがありますが、こちらはそのイメージ通りの場所でしょう。山手って名前の通り、坂道が続きます。

中心の関内からふた駅先、隣駅は元町中華街であちらの方は商業地ですが、ひと駅ズレただけで住宅が広がる地域になります。
ショッピングもできて海も近くにあって自然も程よく残ってる。横浜まで目と鼻の先のこの場所は人気の地域なんでしょうね。

こちらは根岸競馬記念公苑です。
名称に競馬とあるようにこちらの公園には馬の博物館や厩舎があります。もともとここには競馬場がありました。

同地に競馬場ができたのは江戸時代。慶応二年に日本で初めての常設競馬場がこの場所で開設されました。根岸競馬場、のちに横濱競馬場と称され日本の競馬場の祖となりました。

一般的な競馬場は平地にありますが、根岸競馬場は台地にあります。ここに出来たのは幕末に起きた生麦事件がきっかけのようです。尊王攘夷運動が活発となり居留外国人が安全に競馬を楽しむために街道から離れた根岸のこの場所に競馬場を作ったんだそう。つまり元々は外国人専用の競馬場だったようです。

日本から土地を借用し居留外国人が競馬場を運営していましたが明治になり日本人も利用できるようになったそうです。
当時の日本は賭博が禁止されていましたが、居留地にある競馬場だったため治外法権が適用されました。ここに来れば博打が打てるんです。そりゃ人気になったんでしょうね。

人気の競馬場でしたが1943年に海軍に接収され競馬場ではなくなりました。戦時中は連合軍民間人の抑留所として利用されたそうです。

戦後、競馬場を復興させようとするも今度は進駐軍に接収されました。接収から9年後の1964年に解除され返還されたもののこの間に周囲は住宅街となり競馬場の運営にふさわしくない土地となったため根岸森林公園となったそうです。

こちらは幻乃馬・トキノミノル像です。
デビューして10戦しかせずに破傷風で亡くなってしまったのですが、10戦10勝、勝率100%だったそうです。しかも10戦のうち7回はタイムレコードを更新とその当時は最強馬だったようです。このように園内は馬に関するオブジェが複数あります。

園内の広さは19ヘクタール。競馬場だったわりには起伏が激しいです。どうやら戦後、進駐軍に接収されたあとはゴルフ場として利用されていたみたいです。なんとなく雰囲気がゴルフ場っぽいです。
この付近は接収されていた土地が多くあり、つい先日まで公園の裏手は“アメリカ”でした。

遠くに見えるアンコールワットっぽいヤツ、こちらは旧一等馬見所です。アメリカの建築家ジェイ・ヒル・モーガン氏が設計した競馬観客席です。近くで撮影したいのですが、私的利用以外の撮影は許可が必要とのこと。公園管理事務所に確認をしたところ、ユーチューブ動画の撮影は営利目的に当たるため一週間前に撮影許可が必要のようです。また撮影に関しては教育や研究、文化的なものに限るそうです。当然下世話な動画は不可なのでしょう。

当サイトが文化的かどうかは賛否あるかと思いますが、本日は横浜の歴史について知るためにここに訪れました。ほかの記事に非文化的と思われる箇所が無いとは言い切れないですが、今回は歴史を紹介するため。その旨伝えたところ、申請をすれば許可は取れるようです。

でも、一週間後なんですよね。

ってことで今回は辞退しました。撮影禁止場所での園内撮影はできませんが、禁止箇所の外からなら撮影できます。
もともと米軍基地があったところなので、それが理由で撮影禁止となっていたのでしょう。でもすでに返還されています。そのため撮影には何ら問題ない状態ですが、その件について横浜市との話し合いがされておらず、そのままの状態になっているようです。まぁ私的利用の撮影は問題ないようなのでずっとこのままなのかもしれませんね。

根岸森林公園はよい場所です。
広い芝生の広場があり近隣住民の憩いの場です。でも公園の西側、現在人が住んでいないんです。

一般道路の途中に英語で注意書きがあります。こちらは在日米軍兵士およびその家族の住宅地があった「根岸住宅地区」です。元々この先はアメリカでした。

戦争で接収された場所。「アメ公はけえれ!石を投げてやれ」と石を投げ合っていたのでしょう。日本でこんな看板は見ません。

根岸住宅地区の広さは43ヘクタールなので公園の2倍以上の広さ。東京ドーム9個分の敷地に385戸の住宅がありましたが現在全て取り壊しているようです。

根岸住宅地区は2004年に日米間で返還の合意がされ2014年に学校及び教会が閉鎖。そして2015年には軍人やその家族は退去しゴーストタウンとなりました。つまり8年間以上前からアメリカ人はここにいません。

でも二世帯だけ住んでいるそうです。

接収地の返還する場所を示した地図を見ると、少し様子がおかしいところがあります。根岸住宅地区の真ん中あたりが空白になっています。まるでこの部分は返還されないような様子ですがそうではなく、もともとこの場所は接収されていない場所なんです。

1947年10月16日、根岸住宅地区の大部分を接収し、神奈川県渉外事務局渉外課は11月5日から7日にかけて、接収地の住居者に11月10日までに移転することを求める公告をしたそうです。公告した三日後に退居しなければならないってのは今なら人権問題になりそうですが、敗戦国日本には選択権はなかったのでしょう。
このように根岸は接収されたわけですが、なぜかわかりませんが中心のあたりの10世帯分の土地が接収されずに残ったそうです。そして1952年に日米行政協定により同地区がアメリカに手渡されました。

この空白地には日本人が住んでいます。

周りが米軍管轄の土地に囲まれたところに住んでいる日本人は全国でここだけなんだとか。

フェンスの向こうはアメリカ合衆国だけど、そのフェンスの中にあるアメリカに囲まれた日本。

これがほんとのポツンと一軒家、もしくはこんなところに日本人でしょうか。

“本当の日本”へ行くためにはアメリカを経由しなければならない。普通であればパスポートが必要ですが、そのあたりは柔軟な対応がされており、通行証があれば出入りが可能なんだそう。でも来訪者は簡単に入ることはできず、この日本人の家に行くためにはパスポートが必要なんです。

日本は駅に行くのに通行証は不要です。特殊なところだから煩わしい作業が必要。そんなわけで同地区に住む住民が国を提訴しました。

裁判をしたのですが、通行証の提示は日本人に限ったことではなく同地区に住むアメリカ人にも課せられたことなので侵害には当たらないとし、最高裁で敗訴していました。
通行証が必要なのはめんどくさいですが、タワーマンションでは入館するのに指紋認証が必要なところもあります。それと同じと考えれば別に不都合はないでしょう。

日本の中にあるアメリカの中にある日本だったのですが、接収は解除され現在は制限区域の中にある日本になっています。

根岸住宅地区は日本の返還されましたが、自由に出入りができるわけではなく現状もフェンスで囲まれています。この地に都市計画による再開発が想定されているようです。それが滞りなくすすめば自由に出入りできるようになるのでしょう。

再開発案について根岸森林公園に食い込んである接収地は公園の一部になるのが確定してます。他の部分は住宅地と教育機関が置かれるようで、横浜市立大学医学部が候補の一つになっています。住居は低層住宅を主に建てるようなので高級住宅地のようなところになるのでしょう。

でも話はまだまとまっていません。

根岸住宅地区における土地所有者の構成割合は国有地が約27ha、民有地が約16ha、市有地が約0.03haで、民有地の権利者数は約180名です。

民有地に関しては75年前に強制的に追い出された土地の所有者の親族でしょうか。せっかく戻れたのにまた追い出される状態になるわけですが、当事者はゆかりの無い土地です。
民有地の地権者に対し引き渡しの要求を市が出しており8割以上がそれに同意をしているようです。けっこう好意的に考えてる人が多いようですね。おそらく権利変換で再開発後の土地建物を取得できるようになっているのでしょう。悪い条件ではないはずです。

でも1割以上は同意していないようです。

割合的には少ないですが、全員を納得させなければなりません。立ち退きの話し合いが不調となれば裁判に発展するのでしょう。その結果がいつになるかわかりませんが、それが決まらない限りは再開発は進まないです。

これまで根岸団地のあたりが通れなかったので街が分断されていましたが、整備され通れるようになれば利便性の良い場所になるのでしょう。横浜にも近く高台にある根岸。近い将来、高級住宅地になりそうですね。

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