東京の名産は豚皮!臭気漂う皮革産業地「東墨田特別工業地区」
京成押上線の八広駅に来ています。荒川の手前。墨田区の端っこですが東京23区にある駅です。
駅前ってもう少し栄えていそうですが、八広駅前には何もありません。近くの押上や曳舟は再開発により高層マンションが立ち並ぶエリアとなりましたが、一駅ズレると下町の雰囲気を残したままとなっています。
こちらは荒川と綾瀬川に架る木根川橋です。500m先は千葉との県境である緩衝地帯の葛飾区。
スカイツリーも見えて拓けてて景色の良いロケーションです。荒川の河川敷が多摩川みたいでなんとなく川崎っぽい雰囲気があります。
こちらには関東大震災朝鮮人慰霊碑があります。
なんとなく川崎っぽい。
東日本大震災ではデマやフェイクニュースが拡散されました。災害時は不安などから正常な判断ができず、嘘の情報が拡散されやすいのでしょう。とくにSNSが発達した現代では拡散しやすい環境がありますが、テレビもラジオもない時代でも似たような現象が起きました。
1923年9月に起きた関東大震災。死者行方不明者は10万人以上、とくに墨田区は死者が48000人もおり、その多くが火災によるものだったんだとか。そんな混乱状態の中「朝鮮人が放火した」「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といったデマが全国で相次いだんだとか。それを信じた憲兵や自警団らが多くの朝鮮人を集団暴行および殺害しました。正確な数値はわかっていないようですが最低でも数百名は殺害されています。しかも朝鮮人と間違えられた日本人も殺されていたそうです。荒川の河川敷で朝鮮人が虐殺されたためここに石碑を建てたのそうです。
その当時このあたりには多くの朝鮮人が住んでいたようです。
先日荒川区の三河島に行きました。三河島駅前は日露戦争後にできたコリアンタウンでした。三河島のあたりにはその当時屠畜場があり、その仕事をするために朝鮮人が集まったのがはじまりのようです。
八広のこの辺りも動物油脂や皮革を扱う工場が集まる地域で、朝鮮人がいたのもそれが理由でしょう。
墨田区には京島二丁目に屠畜場がありました。1908年(明治41年)に認可を受けて寺島町4丁目(現京島二丁目付近)に寺島屠場を作ったそうです。同施設は1936年(昭和11年)まで営業していましたが、品川屠場に統合されました。
明治以降に食肉が盛んとなった日本。ここは東京の台所だったのでしょう。食肉は市民の胃袋へ。油脂や皮革は加工をして工業製品や革製品となったのでしょう。それらの加工を担う工場が八広の隣町、東墨田にありました。
こちらには都立皮革技術センターがあります。
革の三大名産地は姫路と和歌山、そして東京なんだとか。和歌山や姫路は牛革、東墨田は豚革が有名なんだそう。
地域によって扱う革が違うのは食肉の差によるものなんでしょう。関西では肉と言ったら牛肉、関東では豚肉。このように分かれてるのは諸説ありますが、関西では農耕用の動物が牛だったのが理由なんだとか。ちなみに関東は農耕馬を利用しており、すき焼きと言えば桜鍋だったようですが、馬肉は生産効率が悪いことから馬肉に変わって豚肉が流通したそうです。
東墨田の豚革は国内では90%以上の生産量で、世界的にも有名な豚革生産地なんだとか。そもそも宗教上の問題から世界的に豚肉を食べない人が多く、また豚肉の消費量の多い中国やベトナムでは皮も食されます。日本では食肉加工の際、皮はぎという手法を用いるため副産物で豚革が手に入るようで、そのため豚原皮の生産量は世界的に見ても上位のようで、豚皮輸出国なんだとか。
日本一の生産量、そして世界に名だたる皮革のまち東墨田。かつては穢れとして蔑まれた仕事が、日本を支える一大産業となっているようです。そりゃ多少の臭気はご承知すべきでしょう。
ここは特別工業地域です。多少の騒音や煤煙・臭気はご承知ください。油脂皮革関連企業協議会と書かれた看板があります。
この看板のある東墨田一帯は第一種特別工業地区に指定され、付近には工場があり、その多くが動物油脂や皮革を扱う工場のようです。
皮から革になるまでに様々な行程が必要で、それらを東墨田では一任しているようです。
こちらに塩がくっついているパレットがあります。食肉加工場で皮が剥がされたあとは腐敗しないように塩漬けにするようです。塩漬けされた原皮を洗浄したあと裏打機を用いて余分な脂や肉片を除去していきます。その後石灰漬け、石灰除去、なめしと革ができるまではかなり大変な作業をしなければならないようです。
町内に漂う香りは動物の獣臭と水酸化ナトリウムと油が混ざったようなにおいがします。いいにおいではありませんが、耐えられないほどくさいわけではありません。どちらかといえば川崎の工業地帯の方がくさいです。
現在10社程度に減ったようですがかつては50社以上の工場が創業していたそうです。その当時はニオイがきつかったのでしょう。
皮革業者だけでなく油脂業者もあり、こっちの方が脂臭いです。道路もすこしベタベタしてるんです。とは言っても工場の前だけでそこから離れればニオイは気にならない環境です。
もともとは東浅草で盛んでしたが都市計画の名のもとに東墨田に移設された皮革産業。ルーツがあるからなのかこのような看板が目立ちます。
職業に貴賎なしとは言ってもなかなか重労働。ここで働く従業員の多くが外国人で、事業所自体がここ30年で7割以上減少しており9割の事業所が零細企業のようです。なり手も少なく今後も縮小される業種です。
でも世界的にも質がよいとされる日本のピッグスキン。原皮の輸出はされているようですが、皮革製品の輸出は100トンにも満たないんだとか。製品が世界的に認められれば東墨田も再興するのではないでしょうか。とりあえず豚肉食って応援します。