寿町ではないもう一つのドヤ街「中村町」
横浜には寿町にドヤ街があります。
東京の山谷、大阪の西成、そして神奈川の寿町。これら三つの町は三大ドヤ街と呼ばれています。ドヤ街とは労働者が多く集まり、その人たちが寝泊まりできるよう宿舎が集まった地域。現代で考えるのであれば新幹線の駅前がサラリーマンのドヤ街となっている感じでしょうか。
山谷にドヤ街ができたのは北国から江戸に入る交通の要であり荷役業務で人手が必要だったのが理由。
横浜も開港のための建設ラッシュ、そして港湾業務で人足が必要だったのでしょう。人が集まり、自然とドヤ街ができたのでしょう。
ドヤ街は労働者の街と言われていますが、現状はちょっと様子が違います。
一応は職業安定所が町内にあり、また労働者を確保するための手配師を街中で見かけますが、街に住む多くは高齢者。そして年金がもらえずに収入もない貧困層です。そのため現在は労働者の街ではなく福祉の街になっています。
「高校、大学と卒業し、一般企業に入社、結婚して子供を授かり幸せな家庭を築く。そして家族に看取られ天寿を全うするか、老人ホームに入居する。」
これが日本人の平均的な一生であり定期路線です。
しかしその定められたレールにすら乗れない人が一定数おり、私を含めそのような人々はこの福祉の街のようなところに将来お世話になるのでしょう。
横浜には寿町だけでなくほかの場所にもドヤ街がありました。京浜工業地帯でありこのあたりは常に労働力を必要とした場所です。川崎の方にも現存するドヤ街があります。一時は外国人観光客を呼び入れるように尽力していましたがコロナによってその努力も虚しい結果となりました。そのためどのドヤ街も福祉の街となっています。
そして横浜にはもう一カ所、小さいですがドヤ街の名残りがある地域があります。本日はそちらに行きます。
阪東橋から横浜橋商店街を抜けた先は中村川にぶつかります。こちらは三吉橋から見る中村川。この川を下っていくと寿町、横浜中華街、山下公園に行けます。川の上には首都高狩場線が走っています。明治の頃の中村川は運河として使われており、根岸湾にもつながっています。
昔は中村川には多くの船が係留されていました。どうやら不法係留船もあり、船の宿泊施設もここにはあったそうです(たぶん違法)。また水上生活者もいたそうです(たぶん違法)。現在は浄化作戦によって一掃され、所有者不明の船舶は市の負担で撤去したようでキレイになっています。
この辺りがドヤ街・中村町です。
以前は簡易宿泊所が軒を連ねていたのでしょうが、現在は数える程度しかなく、ほとんどはマンションになっています。
このあたりの最寄り駅は坂東橋になるのでしょうか。駅までのルート上には横浜橋通商店街があります。関内や桜木町などの大きな街に近いわりに、生活環境が整っているんです。
高速道路沿いですが、首都高速の壁は遮音性が高いようでそこまでうるさくありません。大通りに面しておらず比較的静かな場所です。
こちらは町内にある結核予防協会。
大坂の釜ヶ崎では結核の感染率が全国平均と比べると28倍も高いそうで、アフリカと同程度のようです。おそらく神奈川も寿町や中村町などドヤ街に住む人の結核感染率は他のところよりも高いのでしょう。現在はそこまで多いわけではありませんが、以前から感染率が高い地域だったためここに予防協会ができたのかもしれませんね。
中村町のドヤ街も寿町と同じで寄せ場としての機能はなく、生活保護受給者や高齢者の福祉の町になっているのでしょう。
簡易宿泊所の名称が○○荘などの古めの名前のところがありますが、建物自体は新しいところが多いです。○○荘の名前は当時から引き継いでいるのでしょう。
中村町にあった簡易宿泊所の多くは建て替えとともに一般住宅に変わりましたが、一部残っているところは建て直した後も簡易宿泊所として経営を続けているようです。
寿町の殺伐とした雰囲気も良いですが、中村町のように落ち着いて静かなところもいいですね。かといって中心地から離れているわけでも無い。少し歩けば商店街もあるし住みやすい。
ぱっと見普通の集合住宅みたいなところですし。
中村町には少し古い建物がいくつかありましたが基本的に新しい建物ばかりでした。そして簡易宿泊所もキレイだし、路上にたむろしているヤバそうな人も少ないし、寿町よりこっちの方がよさそう。
10年前とは違いドヤ街と呼ばれるところの治安は改善して街もキレイになっています。
とは言っても、普通の街と比べると異様な空気に包まれ、治安が凄い良いわけではありません。高齢者だけであれば何も問題ないのですが、秘匿性の高い街だからこそ犯罪者や覚せい剤中毒者、精神的な病を患っている人も出入りしています。ドヤ街ではたまたまそういう人たちにかち合い、犯罪に巻き込まれる可能性も否めません。
でも中村橋はドヤ街ではなく普通の住宅地の様子でした。
下着姿の人とかち合うことはありますが、そんなのは稀だし別に何の害もありません。むしろ安全だからこのような姿で出入りできるのでしょう。
近い将来、中村町が第二の故郷になるかもしれませんね。